道海永寿会では人に介助されるだけではなく、ご本人の生きようとする力を回復させ、
出来るだけ自分で生活する喜びを取り戻して欲しいと願っています。
そのためには人の認知機能、コミュニケーション機能、身辺自立機能を司る、脳の前頭前野を刺激してその活動を促進する必要があります。
その方法として、東北大学・川島隆太教授が開発した「学習療法」を使っています。
学習療法とは?
学習療法とは、音読と計算を中心とする教材を用いた学習を、
学習者と支援者がコミュニケーションをとりながら行うことにより、
学習者の認知機能やコミュニケーション機能、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善を図るものです。
前頭前野とは?
脳の外側には大脳新皮質という部位があります。
大脳新皮質は「前頭前野」「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」に分かれています。
前頭前野の働きは人間が「人間らしい」行動をするために大事な場所です。
前頭前野が何を行っているのか?
- 行動・情動の抑制
- コミュニケーション
- 意思決定
- 身辺自立
- 短期記憶
- 思考
学習療法発祥の地
道海永寿会では1980年から脳に刺激をあたえれば高齢者の認知機能低下の抑止になるのではないかと公文の教材を用いていました。
これをきっかけに脳科学者である東北大学の川島隆太教授、公文教育研究会、道海永寿会の3者が出合い、
川島教授主導のもと3年間の共同研究が開始されました。
研究では、高齢者向けの簡単な読み書き・計算の教材を開発し、川島教授の仮説をはるかに超える成果が生まれました。
この道海永寿会での研究をもとに2004年に「学習療法」言葉が商標登録されました。
この結果、それまでの認知症の概念(進行性、何も分からない等)は崩れました。
研究の様子
道海永寿会にて光トポグラフィー装置よる脳の血流を測定する
川島教授
学習者により多くの血流(赤色)が見られる
研究からみえた“人”の可能性
この研究から学習療法を実施している方たちは
表情・言葉・排泄・ADL・主張・他者のための行動等々プラスの変化が顕著にみられる様になり、
介護度も軽くなる人も出てきました。
この成果を受けてアメリカでも実証実験が行われ道海永寿会の研究と同様に成果がみられました。
学習療法がもたらした生活の変化(道海永寿会の事例)
寝たきりから離床生活へ
永らく寝たきりで言語障害もあった方が学習療法を続けるうちに離床されて学習を行うようになり、家族へ手紙を書いて思いを伝えられるまでになった。
うつ状態から笑顔へ
(事例1)
うつ病で人と話すことがほとんどなく無表情であった利用者に学習療法を導入し、コミュニケーションを多く持つことにより、徐々に自ら話されるようになり、笑顔もみられるようになった。5年経過後も、積極的に学習療法やレクリエーションにも参加され、笑顔が絶えない日常を送られている。
(事例2)
うつ病にて精神科へ入院されていた方で、他のグループホームで他者とのトラブルが絶えなかった為家族より生活環境を変えたいとの理由で本法人のグループホームへ入居された。入居当初は感情の起伏が激しく同様に他の入居者とのトラブルが多く孤立されていた。
学習療法を導入し3ヵ月後には徐々に変化がみられ共有スペースで過ごす時間が増え、半年後には洗米や編み物など生活意欲があがり表情にも変化が見られるようになった。9ヵ月経過した頃には感情の起伏もなくなり生活の中で洗濯物たたみや食事のつぎ分けが役割として定着し、他者とのトラブルもなく冗談を言ったり笑顔で過ごされることが多くなった。
無気力・閉じこもりからの脱却
(事例1)
要介護4で認知症があり自宅で入眠傾向が強い在宅利用者に、家族の強い希望により学習療法を導入した。
導入後、入眠状態が減少し、表情も笑顔が多く見られるようになり自発的に会話するようになった。身支度や化粧もされるようになり、また自宅では皿洗いができるまでになった。
(事例2)
30年間自宅に閉じこもり状態で心身機能の低下が著しく、家族負担軽減のため通所リハを利用された方(利用当初は入浴のみ離床で排泄、食事その他においてもベッド上での介助)の離床目的に学習療法を導入した。
導入後、徐々に離床時間が増加し、排泄・食事もベッド上から離れてできるまでに改善、半年後には自ら口腔ケア、整容を訴えるまでになり、生活のリズムも改善した。1年3ヵ月経過した後には、家庭で歩行もできる状態まで回復した。
生活意欲の向上
中度の認知症で何事にも関心を示さなかった入所者が他の学習者の姿を日頃から目にするうちに、徐々に興味を示されるようになり学習療法を始めた。
学習を続ける過程で、食事の献立案内放送をお願いしたところ当初は拒否されることもあったが、しばらくすると自分の役割と理解され、献立表を大切に持ち歩かれるようになったり、他の方の放送時にはアナウンスに対し指摘するなどライバル心や自分の役割に対するプライドまで感じるようになった。
在宅生活の活性化
脳梗塞の後遺症で右麻痺・失語症が残った在宅利用者で、リハビリと家族負担軽減のためデイケア利用となる。本人の「以前のように友人に年賀状を書きたい」という思いから家庭内で行う学習療法を取り入れた。
このことにより、家族とのコミュニケーションが増え学習が楽しみとなった。学習を続けていくうちに絵画を書いたり俳句を作って楽しまれたりする等、倒れる前の自分を取り戻すきっかけとなった。また、当初は本人の姿を外に出したくないとの思いが強かった家族も、本人の頑張りを見て気持ちに変化が表れ積極的に活動をバックアップされている。
精神疾患(自律神経失調症)の改善
自立神経失調症にて「よだれが出る」との訴えが顕著で利用拒否の訴えもあったデイケア利用者へ、数か月後に控える「孫の結婚式に出席する」との目標を立てて、目的達成の手段として本人へ学習療法のアプローチを続けて導入するに至った。
導入後、意欲が向上され、利用当初認めた流涎の訴えも減少し、また、失禁もなくなり排泄状況も改善した。希望されていた孫の結婚式への参加することもできた。
学習療法の取り組みがNHKで放送されました
施設利用者が元気に過ごせるためにと行ってきた学習療法の取り組みはNHKの約1年に及ぶ密着取材を受け2007年2月25日・NHKスペシャル「脳を鍛えて人生を再び~福岡 高齢者たちの挑戦日~」のタイトルで全国放送されました。
認知症「予防」地域活動
学習療法は施設利用者にとどまらず、地域の元気な高齢者を対象に認知症「予防」を目的とした取り組み「脳の健康教室」としても実施し、道海島地区老人会で2006年から現在まで十数年継続しています。
それを受けて大川市が2016年から3年間、認知症予防事業として道海永寿会に委託し「あたまの健康教室」が行われました。(現在も継続中)
学習療法からケアを学ぶ
スタッフたち
学習療法を実践していく過程でスタッフ達にも変化がみられ、
介護に必要な気付き力のアップなど介護の質の向上が見受けられるようになりました。
道海永寿会では一年の学習療法の取り組みの成果や反省等を発表する場として、学習療法実践研究発表会を開催しており、
法人の学習療法にかかわらない職員を含め情報を共有し理解を深めています。
発表会では毎年、学習者の事例や職員の変化など様々なテーマについて発表しており、
職員、利用者家族はもとより地域の方々や行政、そして全国の学習療法導入施設からも多く参加されています。
毎年恒例の学習療法実践研究発表会
(12月第1日曜日)
学習療法に関するテーマ別研修